小林啓倫『AR―拡張現実』マイコミ新書、2010年

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 2010年8月8日(日)にブックファースト淀屋橋店で購入。同日読み始め、翌日読み終える。

 ARの発想そのものは、著者も書いているように決して新しいものではない。そういう意味では本書を読むことで新しい発見はなかったが、ARの実例を数多く紹介してくれている点でたいへん読み応えがあった。

 わたしは「頭のなかで考えていることをそっくりそのままボウルのなかにひっくり返し、自分も含め誰もがそれを確認できるようにしてくれるツール」[8月6日のtweetより](を実現するためのもの)として、AR(いみじくも筆者が指摘しているように、仮想世界と現実世界の相互作用および両者と人間の相互作用)による情報の集約・拡散・連結、コミュニケーションの変容、ブレスト、および演劇ワークショップなどを絡めたものを考えているのだが、それを実現するためには技術だけでなく(コンテンツの)デザインが不可欠だと考えている。そのため筆者がAR三兄弟(の長男・川田十夢)を引きながら次のように論じている箇所には特に共感を覚えた。

 このように、「拡張現実」という概念は、何も高度な技術が使われていなければならないというものではない。確かに技術の側面も大切なのだが、そればかりにとらわれていると、逆に「ARのためのAR」を生み出してしまう結果になるだろう。

 むしろ「どのような空間を生み出したいのか」「そのためには何を『拡張』すればいいのか」というゴールから逆算する姿勢が求められるはずだ。そして成功しているARの活用例には、少なからずそのような姿勢が感じられるというのが私の感想である。

 その意味で、ARの世界で求められるのは、決して技術者ばかりではないだろう。逆に今回取材させていただいた方々の中には、「技術者の発想は定型化されてしまっていて面白くない」というような指摘をされる方が少なくなかった。また、AR三兄弟の長男・川田十夢氏はこんなことを語っている。

「劇団には面白いことをやっている人たちが大勢います。劇団も『場所』にルールを持ち込んで何かをやるという点では(AR三兄弟が取り組んでいる活動と)一緒ですよね。彼らは空間にルールを持ち込むプロ。いろいろな気付きがあります」[上掲書、196-7頁]

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